「まだ皮を調べただけだというのに、思った以上の成果を得られたのぉ」
ベニオウの実の皮を調べたら、中にいっぱい魔力が入ってる事が解ったでしょ?
だからロルフさん、とっても嬉しそうなんだよね。
「そうですわね。でも流石に今日は、もうこれ以上すすめる訳にはいきませんわ」
「うむ。まだちと早い時間じゃが、さりとてポーションの試作を行うには時間が足りぬ。今日の事炉は、ここでお開きにするのがよかろう」
前にこの錬金術ギルドでロルフさんと一緒に下級のを作った事があるけど、それでも作るのに結構時間がかかったんだよね。
なのに今回はまだ誰も作った事のないポーションを作ろうって言うんだもん。
どんだけ時間がかかっちゃうか解んないから、今日はここまでにして、続きはまた明日やろうねって事になったんだ。
「ローランドよ。すまぬが、ラファエルとルディーン君を宿まで送り届けてもらえるかな」
「畏まりました。旦那様」
って事で、僕とお爺さん司祭様はローランドさんが馬車で送ってくれることになったみたい。
でもね、僕たちが乗ってっちゃったら、ここには馬車が無くなっちゃうでしょ?
だから僕、ロルフさんに聞いてみたんだよ。
「ロルフさん。僕たちと一緒に帰らないの?」」
「ん、わしか? わしはまだここでやる事が残っておるからのぉ。もう少しだけ、ここにおるつもりじゃよ」
「でもさ。僕たちが乗ってっちゃったら、馬車が無くなっちゃうんじゃないの?」
「おお、なるほど。じゃが、そのような心配はせずとも良い」
ロルフさんはね、優しいねって僕の頭をなでながら、なんで馬車が無くなっても大丈夫なのかを教えてくれたんだ。
「わしはほぼ毎日この錬金術ギルドに来ておるじゃろう? じゃからな、そのための馬車がちゃんとあるのじゃよ」
「そうなの?」
「うむ。じゃが流石に錬金術ギルドの前に置いてあっては、来客が来た時に邪魔になるでのぉ。わしが帰る時間まで、別の場所で待っておるのじゃよ」
そう言えば僕たちが送ってもらう馬車って、ローランドさんが乗ってきた馬車だっけ。
ロルフさんだってここに来るのに馬車に乗っけてもらって来てるだろうから、その馬車とは別にもう一個馬車があるのは当たり前だよね。
「そっか! じゃあ、僕たちが乗ってっちゃっても大丈夫なんだね?」
「うむ。安心して、ローランドに宿まで送ってもらうとよかろう」
ロルフさんは僕にそう言うとね、今度はローランドさんにきちんと送り届けてねって。
そしたらローランドさんは胸に手を当てて、ゆっくり頭を下げたんだ。
「バイバイ。また明日ね」
「ええ、また明日」
「気を付けて帰るのじゃぞ」
馬車の窓からバーリマンさんとロルフさんにサヨナラの挨拶をすると、それが合図だって見たいに馬車がゆっくりと動き出したんだ。
だから僕、窓から顔を出して二人に向かって手を振ってたんだけど、
「これ、ルディーン君。その様な事をしていては危ないではないか。椅子に座りなさい」
お爺さん司祭様にこう言って叱られちゃった。
確かに窓から顔を出して、後ろに向かって手を振ってたら危ないよね。
僕がよく乗ってるうちの村の馬車だと、ほろがあるやつでも後ろが開いてるから身を乗り出したりしなくっても見送ってくれる人たちに手が触れるんだ。
だからロルフさんたちに手を振るのは普通だって思ってたけど、こういう箱型の馬車だとやっちゃダメな事だったんだね。
「ごめんなさい」
それが解ったから、僕は椅子に座って、お爺さん司祭様にごめんなさいしたんだ。
「何、解ればよいのじゃ。君は狩りに出かけるなどしてレベルが上がり、身体能力も普通の者たちよりも高いであろうから落ちる心配は無いかもしれぬが、もしもという事もあるからのぉ。そして何より、それを見た他の子供がまねをするといけないであろう? これからは気を付けるのだぞ」
「そっか! 僕より小っちゃい子が真似したら困るもんね」
スティナちゃんみたいな小っちゃい子は、普通に歩いてるだけでもころんじゃう事が多いんだよね。
だから僕がやってるのを見て、もしまねしちゃったら窓から落っこちちゃうかもしれないもん。
そんな事になったらほんとに大変だから、僕はもう絶対しないぞって思ったんだ。
馬車って歩くより早いでしょ?
それに『若葉の風亭』は錬金術ギルドからそんなに離れてないから、僕たち乗せた馬車はあっという間についちゃったんだ。
と言う訳で、ローランドさんが御者台から降りて、僕たちが乗ってるとこの扉を開けようとしたんだけど、そしたら門のとこに立ってたこの宿の制服を着た人が大慌てで走ってきて、扉が開いたら中にいる僕たちに向かって頭を下げたんだ。
これ、実はさっき寄った時もおんなじことされたんだよね。
あの時はロルフさんやバーリマンさんが一緒に乗ってたから、多分この人は今回もふたりが乗ってるって思ったんじゃないかな?
でも今は僕とお爺さん司祭様しか乗ってないでしょ?
だから僕、中を見たらがっかりしちゃうんじゃないかなって思ったんだ。
「いらっしゃいませ。ようこそ、いらっしゃいました」
なのにこの人、中にいる僕たちを見てもこんなあいさつをしたもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
だってお父さんたちと一緒に来た時は、こんなあいさつされた事ないもん。
でもね、お爺さん司祭様は僕とは違ったみたい。
「うむ。出迎えご苦労」
ローランドさんの出してくれた踏み台を使って降りた後、そうされるのが当たり前って感じでそう言ったんだよ。
でね、その場でくるっと振り返ると、
「何をしておるのだ、ルディーン君。おろしてあげるからこちらに来なさい」
そう言ってこっちに向かって手を差し出してきたもんだから、僕はうんって返事してお爺さん司祭様に馬車からおろしてもらったんだよね。
そしたら制服を着た人が僕にもお爺さん司祭様にしたみたいに、
「いらっしゃいませ、お坊ちゃま。ようこそ、いらっしゃいました」
って頭を下げたもんだから僕、びっくりして思わずおんなじようにペコって頭を下げちゃったんだ。
これについては次回の冒頭で少し触れるかもしれませんが、若葉の風亭で出迎えた従業員、人を見て態度を変えているようでちょっと不快に思えるかもしれません。
でも実はこれ、ある意味しかたが無いんですよ。
今の時代だと、誰が来ても全く同じ対応をするのが当たり前だと思います。
でもこの世界だと明確な身分差があるんですよね。
なのでもしすべての人に同じような対応をしていると、中には宿相手だけでなく他のお客さんにまで迷惑をかける人が出てくるんです。
特に高ランクの冒険者やグランリルの村の人たちのように、お金をもっているけど別に着飾ったりしない人たちに対して。
なので、わざわざこのような差をつけた出迎え方をしていたりします。
因みに、宿に入ってしまえば当然皆同じです。部屋の中での対応なんて、他の人には解りませんからねw